スカラシップの活動やJTLの取り組みを通じて、自分自身がジュニアだった頃のことを思い出す機会が増えました。
当時は気がつけなかったこと。あるいは、気がついていても何を伝えたらいいのか分からなかったこと。伝えてはいけない気がしていたこと。そうしたことをいま改めて振り返る場面が増えたように感じています。
今回は、選手と指導者の間のコミュニケーションについて少し考えてみたいと思います。
たとえば、選手が「体調が悪いので今日は休みたい」「膝が痛いからトレーニングをしたくない」「同じ練習ばかりで楽しくない」と口にする場面があります。
こうした申し出を受けたとき、指導する側は無意識のうちにこう考えてしまうことがあるかもしれません。「本当は少しさぼりたいだけではないか」「嫌いなことから逃げているのではないか」と。
選手のほうはしっかり話を聞いてもらえないと、「真剣に聞いてもらえない」「言っても否定される」と感じてしまうことも少なくありません。
このすれ違いが一度でも起こると、次回以降選手からの正確な情報が出てこなくなっていくことがあります。「どうせ話しても聞いてもらえない」と感じたり、「言うと余計に叱られる」と感じたりして、大切な情報を伝えなくなってしまいます。
情報が届かなくなると指導する側からの適切な判断も難しくなります。結果として、選手の成長や安全にとって望ましくない方向に進んでしまうことがあります。
こうした状況を避けるために、日頃から意識したいことがいくつかあります。
一つは、最後まで聞くこと。話が途中で内容が予想できてしまった(実際には予想できると思い込んでいることが多いように感じます)としても、選手が話し終えるのを待つ姿勢です。
もう一つは、聞く前や聞いている途中で結論を出したり、決めつけたりしないこと。「どうせこういうことだろう」という前提を持って聞いてしまうと、選手の言葉は届きにくくなります。
そしてもう一つ大切なのは、コーチの側も思ったことを素直に伝えること。もし「さぼりたいのではないか」というようなネガティブな感情が浮かんだとしても、選手が落胆したりしないように考えたり、どんなことも伝えていいんだと思わせたり、話してくれていることに感謝していることを選手に伝えるように、伝え方を工夫したうえで話すようにしましょう。「僕自身もしんどいことはしたくないなって感じることがよくあるんだよ。だから、もしいまきみもそういう気持ちならそのまま教えてほしいんだ。しんどいって感じているならそのことを君と共有できると嬉しいんだ」というように、選手が話しやすい環境を作り出すのは、コーチ側の仕事だと考えています。選手個々に合った話し方が必要な場面です。
さらに、解決策を一緒に考えること。理由や目的を、選手が理解できる範囲で共有すること。こうしたことも、選手が「自分のために時間が使われている」と感じられる大切な要素になっていきます。
もちろん、あえて詳しくは話さないほうが効果が上がる場面もあります。
たとえば、選手に意識させずに動作を観察したいとき。メンタル面に触れる場面で、多くを語ることが逆効果になるとき。そうした場面では意図的に「話さない」という選択を取ることもあります。
けれども、話さないという選択をした場合でも話せる範囲のことは伝えておく姿勢は大切だと考えています。すべてを伝えないにしても、その場で伝えられることは伝えておく。そうすることで、選手が「自分は無視されている」と感じることを避けられます。
そして、効果を見た後になぜそうしたのかを伝えることも忘れないようにします。そうすることで、次回以降目的を詳しく話さないときでも、選手はコーチの判断を信頼してくれるようになります。
痛みを訴えたときに「じゃあ練習するな」という一言で応じてしまうことは、選手にとって特にジュニア選手にとって悲しい言葉になることが多いように思います。
実際にはその言葉の背後に、指導する側の様々な事情や考えが含まれていることもあります。けれど、選手の側にはその含意は届きにくく、「自分のことを本気で受け止めてもらえていない」という感覚だけが残ってしまいます。
そうした一度の体験が次回から痛みを伝えなくなる原因になることがあります。伝えるべき情報が伝わらなくなり、結果として怪我を悪化させてしまうこともあります。
一言で応じるのではなく、なぜ痛むのか、いつから痛むのか、どういう動きで痛むのかを一緒になって考え共有すること。そのわずかな時間が選手の身体を守り、選手との信頼関係を守ることに繋がっていくと感じています。
選手がベストの状態で練習に臨めるように、選手とコミュニケーションを取ること。これは、練習そのものよりも大切なのではないかと考えるようになりました。
技術指導に多くの時間とコストをかけるのと同じくらい、あるいはそれ以上に選手との対話に時間とコストをかけたい。JTLでは、コミュニケーションの重要性をこう位置づけています。
現場で日々選手と向き合う指導者の方々の負担が大きいことは十分に理解しています。日々の指導の中でコミュニケーションに使える時間が限られていることも多いと思います。
だからこそJTLは、現場のコーチと選手の間に立って、対話の材料を提供したり、選手の理解を助ける仕組みを一緒に考えたりする役割を担いたいと考えています。
伝えられなかった記憶、伝えなかった記憶。それらはいま同じ場面に立つ選手たちの中にもきっと存在しています。
一つでも多くの声が届くべきところに届くように。JTLは、そのための対話の場をこれからも大切にしていきたいと考えています。
