目的を持ってドリルをする・実践・応用編
前回(その1)では、安全管理・目標設定・ドリルの導入説明・選手の観察という、ドリルを効果的に運営するための基本的な考え方についてお伝えしました。今回はより実践的な応用編として、グループ指導の現場でコーチが直面する具体的な状況への対応方法について考えていきます。
ポイント5:能力差のある選手への対応
グループレッスンでは、同じドリルを行っていても選手の能力に差があることは避けられません。これはむしろ自然なことです。大切なのはその差を否定することではなく、同じドリルの中で個々の選手に合った負荷と目標を設定することです。
コーチが調整できる主な要素:
- フィードの難易度 ─ 球速・深さ・コース・スピンの量を選手に合わせて変える
- ターゲットエリア ─ 上級者には小さく・初心者には大きくする
- ショットパターン ─ 同じドリルでも求めるショットの種類を変える
- ドリルのスピード ─ テンポを上げることで上級者への負荷を高める
グループ練習の中で個別対応を行うことは、コーチの観察力と判断力が問われる場面です。すべての選手が「少し頑張れば届く」レベルの課題に取り組んでいる状態を作ることが、グループ全体の成長につながります。
ポイント6:ドリルを発展させる
ほぼすべてのドリルは、段階的に難度を上げることができます。同じドリルに変化をつけることで選手の集中力を維持し、成長に合わせた刺激を継続的に与えることができます。
ドリルを発展させる主な方法:
- ボールの数を増やす(連続性・持久力への負荷を高める)
- スピードを上げる(反応・判断のスピードを鍛える)
- あえてゆっくりにする(テクニックの精度を上げる)
- ゲーム形式を追加する(スコアをつけることでプレッシャー下での実践力を養う)
- ターゲットを小さくする(精度と再現性を高める)
- 動きのパターンを複雑にする(コーディネーションと戦術的判断を鍛える)
シンプルなドリルをベースに少しずつ要素を加えていくことで、選手は「できた」という達成感を積み重ねながら成長できます。いきなり複雑なドリルを導入するよりも、シンプルなドリルを丁寧に発展させる方が、長期的な成長につながることが多いです。
ポイント7:動画を活用する
「百聞は一見に如かず」はポイント3のデモンストレーションだけでなく、振り返りにも当てはまります。練習を動画で記録し、選手と一緒に振り返ることは、コーチの言葉だけでは伝わりにくい気づきを生み出します。
動画活用の具体的な方法:
- スマートフォンでドリルを録画し、その場で選手に見せる
- 良いプレーの場面を切り出して、グループ全員で共有する
- 定期的に記録することで成長の変化を可視化する
重要なのは、動画をネガティブなフィードバックのツールにしないことです。「ここがダメだった」ではなく「ここがこう変わった」「この場面のこの動きがよかった」というポジティブな視点で活用することで、選手の自己認識と自信を育てることができます。
またコーチ自身も自分のコーチング場面を録画して振り返ることをおすすめします。自分では気づかないクセや改善点が見つかることがあります。
ポイント8:保護者への対応
「ドリルよりもポイント練習や試合をもっとやってほしい」という声は、現場でよく聞かれます。保護者がそう感じるのは、ドリルが「遠回り」に見えるからかもしれません。
しかし前回の記事でお伝えしたように、ドリルには目的があります。その目的が保護者に伝わっていないとき、誤解が生まれます。
対応のポイント:
コーチはドリルの目的を保護者にも伝える習慣をつけましょう。練習前後の短い一言でも十分です。たとえば「今はリカバリーポジションを意識させているんです。打った後の動きが良くなってるでしょう?」などと積極的に話しかけるようにしてみましょう。保護者の見方が変わります。
JTLが提供している練習記録シートは、このための道具です。コーチが何を意図して練習を設計しているかを三者で共有することで、保護者の理解と信頼を得やすくなります。ドリルの目的を「見える化」することが、三角形(選手・コーチ・保護者)を機能させることにつながります。
ポイント9:個別レッスンが必要な選手を見極める
グループドリルは、各選手の進捗状況を観察する絶好の機会でもあります。グループの中では見えにくかった課題が、ドリルを通じて明確になることがあります。
個別対応が必要なサインの例:
- 特定のショットで繰り返し同じエラーが出る
- グループのペースについていけず、焦りや萎縮が見られる
- 逆に、グループの課題が物足りなくなってきた
このような選手に気づいたとき、グループレッスンの中で対処しようとすることには限界があります。個別レッスンでの集中的なフォローアップを提案することで、選手の成長を加速させるとともに、コーチとしての信頼も高まります。
「気づいて、提案する」── これもコーチの重要な役割のひとつです。
ポイント10:コート上の人数について
ドリルの種類によって、最適なコート上の人数は異なります。一概に「少ない方がいい」とは言えません。
考え方の基準:
- 高負荷のドリル(フィジカル・持久力系)は多人数でも成立する。待機時間を利用してシャドースイングやフットワーク練習をさせることで、全員が動き続けられる
- テクニック系のドリル(フォームの精度・繊細な感覚)は少人数の方が効果的。コーチの目が届きやすく、フィードバックの質も上がる
- ゲーム形式のドリルは、人数が多い方が競争意識が生まれやすい場合もある
大切なのは「待っている選手に何をさせるか」を常に考えることです。待機中の選手が何もしていないドリルは、コート全体の効率を下げています。ポイント3でお伝えした「各自の役割を与える」という考え方は、ここでも生きてきます。
まとめ(その2)
2回にわたってお伝えしてきた「目的を持ってドリルをする」シリーズ。最後に重要なポイントをお伝えします。
ドリルの質を決めるのは、ドリルそのものではありません。
どんなシンプルなドリルでも、目的を持ち、全員が理解し、安全に、そして選手一人ひとりの状態を観察しながら運営されたとき──それが最高のドリルになります。
このシリーズを読んでくれたコーチのみなさんが、明日の練習から一つでも試してみてくれたら嬉しいです。
前回の記事はこちら: → 最高のドリルとは?(その1)目的を持ってドリルをする・基礎編

