グリップの呼び方(JTL推奨)と符合の重要性

JTLの視点

グリップの呼び方(JTL推奨)と符合の重要性

グリップの呼び方、正確に伝わっているでしょうか

コンチネンタル、イースタン、セミウェスタン、ウェスタン、あるいは「左手ウエスタン・右手コンチネンタル」といった組み合わせまで、テニスの指導現場ではさまざまなグリップの呼び名が使われます。ですが、これらは指導者と選手の間で正確に同じものを指せているでしょうか。

これらの名称自体は世界的に広く使われているものの、「どのベゼルからどのベゼルまでが何グリップか」という厳密な基準は、情報源によって微妙に異なるようです。大まかなイメージとしては共有されていても数値としての世界共通基準は存在しないと考えて良さそうです。

JTLがベゼル番号を使う理由

そこでJTLでは、主筆が以前発行した”DRILLS for TEACHERS”でも採用していたベゼル番号のシステムを、指導の基準として使っています。

考え方はシンプルで、ラケットを握る手のK(指の付け根側)H(手のひら側)を基準点とします。そして、ラケットハンドルの断面を8つの面(ベゼル)に分け、1〜8の番号を振ります。この2つを組み合わせることでグリップの位置を具体的な番号として表現できます。

K(指の付け根側)とH(手のひら側)の基準点を示すハンド図
図1|K・Hの基準点
ラケットハンドル断面のベゼル番号1〜8
図2|ベゼル番号(右手・グリップエンドから見た断面)
シングルハンドグリップ
グリップ名 右利き 左利き
KHKH
コンチネンタルグリップ21-281-8
イースタン フォアハンド32-377-8
イースタン バックハンド11-811-2
セミウェスタン フォアハンド4466
セミウェスタン バックハンド8822
ウェスタン5555
ダブルハンドグリップ(右手・左手それぞれのK/H)
グリップ名 右利き・右手 右利き・左手 左利き・右手 左利き・左手
KHKHKHKH
イースタンFH / イースタンFH32-377-877-832-3
イースタンFH / セミウェスタンFH32-36666-744
イースタンFH / ウェスタンFH32-35577-855
イースタンFH / セミウェスタンFH(別型)1-88661-2244
コンチネンタル / イースタンFH21-277-881-832-3
コンチネンタル / セミウェスタンFH21-26681-844
コンチネンタル / ウェスタンFH21-25581-855

このシステムがJTL以外でも使われているかは分かりませんしそれを求めているわけでもありません。大切なのは世界的な標準であることではなく、指導者と選手が同じ認識を持てるかどうかです。認識が共有されていれば、その後の指導の効果は高まりやすく、パフォーマンスの向上にもつながると同時に以降の認識のずれを最小限にすることにも貢献すると考えられます。

グリップの認識のずれについて話しましたが、
小さな認識のずれが大きな行き違いになることもあります。

言葉は近似値でしかない

コーチが発する言葉も選手が受け取る言葉も、もともとは脳内の電気信号のようなものだと考えられます。それを近似的な記号である言葉に変換して初めて、人と人との間でやり取りが可能になります。つまり、言葉のみの情報だけで、発した本人と受け取った側が完全に同じものをイメージするというのは構造的にかなり難しいことだと考えられます(数字や物理量のような普遍性の高いものは比較的ずれが少ないと考えられますが)。

グリップという一つの具体例からも分かるように、「同じ言葉=同じ認識」とは限らない場面は、テニスの指導に限らず多くあるのではないでしょうか。

ブレ幅の少ない環境を作り、ブレ幅の少ない言葉を選ぶこと。分かった風にしてやり過ごす必要はなく、伝わりにくいと感じたときほどあきらめずにすり合わせる作業が効果を生むのではないかと考えています。

グリップのような具体的で表現しやすいものでさえ共通認識を作るには一手間かかります。ましてや、感覚や意図といったより曖昧なものを伝え合うときには、なおさらの丁寧さが必要になると考えられます。指導者と選手の認識が符合しているか——それを確かめ続けることが伝えるという行為の土台になるのだと思います。

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コーチに高さを使おうと言われた時の一つの考え方― 軸の傾斜に関する検討

JTLの視点

コーチに高さを使おうと言われた時の一つの考え方
― 軸の傾斜に関する検討

「もう少し高く打ちましょう」。練習やレッスンで、一度は耳にしたことのあるアドバイスかもしれません。けれど、いざ高く打とうとすると、どうすればいいのか分からず迷ってしまった——そんな経験はないでしょうか。多くの場合、「高く狙って」という言葉だけが残り、ではどうやって高さを作るのか、というところまでは語られないように思います。

「高く狙う」だけでは再現しにくい

ボールを高く飛ばそうとして、手先でラケット面を上に向けたり、すくい上げるように打ったりすると、一球ごとに動きがばらつき、再現性が下がりやすくなります。高さは「気持ちで狙う」ものというより、基礎フォームを使い、外的要因を変化させる(実際には疑似的に外的要因を変化させます)と考えることで、何をしたらいいのかが明確になります。その外的要因のひとつが、発射角です。

打ち方を変えるのではなく、軸の傾きを変えるという考え方

高さを出す方法として、打ち方そのものを変えるアプローチも考えられます。ただ、打ち方を変えると再現性が複雑になりやすく、もともとの基盤となるスイングの安定性にも影響を与える可能性があります。軸の傾きで調整する考え方は、土台の傾きを調整するアプローチであるため、基盤となるスイングを保ちます。基盤となるスイングを向上させることで、高さを変更するショットの質も同時に向上するのです。そのためJTLでは、軸の傾きの調整による高さの変更を一つの方法として提案しています。

地面を傾ける

JTLでは、発射角を変えることを「地面の傾きを変える」とイメージしてみると分かりやすくなります。といっても、実際に地面が傾くわけではありません。本当の意味では、体の軸の傾きを変えるという発想です。

ここで大切なのは、地面・体軸・スイング・発射角を一つのセットとして、まるごと傾けるという点です。軸と地面の角度(90度)も、軸と発射角の関係も変わりません。同じ姿勢、同じスイングのまま、セットごと後ろ下がりに傾けると、実際の地面に対しての発射角だけが、傾けた角度のぶん上を向きます。

この関係は、下のツールで実際に動かして確かめられます。

TOOL

発射角視認ツール

地面を傾けると体軸と発射角が一体で回り、姿勢を変えずに発射角だけが変わる様子を確認できます。「軸で高さを作る」感覚をつかむためのツールです。

地面の傾きを、体の軸の傾きで疑似的に生み出す

この感覚は、ゴルフをしたことがあればイメージがしやすいと思います。たとえば「左足上がり」(右利きの場合、左足側が高くなる傾斜)など、傾斜が付けば、その傾斜に合わせてボールは飛ぼうとします。実際、左足上がりの斜面ではアッパー軌道で当たりやすくなり、打球が高く上がります。これが傾斜による発射角の変化の効果です。テニスではほぼ100%コートは水平ですので、これを自分から作りにいくと考えるようにします。

具体的には、後ろ脚(軸足)の膝関節の屈曲をやや深めにしたり、腰をやや伸展させる(腰を反らせる方向に伸展させる)ことで、上体が後方に傾きます。オープンスタンスでの軸の傾けはやや難しいため、セミオープンを利用すると作りやすいと考えられます。

※なお後傾すると、実際の打点の座標は後方へ移動することになります。ただし、軸と打点の距離が変わるわけではなく、座標としての位置が下がるだけ、という点を理解しておくことが大切です。

また、ステップの利用(バックフットピボットやフロントフットピボットなど)も、ヒッティング時の軸の傾きづくりに役立ちます。ステップワークやフットワークについては、別の記事であらためて紹介します。

発射角が変われば、着弾も変わる

発射角の変化 = ネット上空での高さの変化 = 着弾点の変化

軸を傾けて発射角が変わると、ボールの落下点も変わります。発射角が何度変わると、どこに落ちるのか——それは弾道シミュレーターで確認できます。また、軸の傾きが発射角を作り、発射角が着弾を決める、という流れでつながっています。

TOOL

テニス弾道シミュレーター 詳細版

発射角・回転量・スイング速度に加えて、コート上の位置や打つコースまで設定でき、ボールがどこに落ちるかを物理計算で確認できます。発射角の変化が着弾にどう効くかを視覚的につかめます。

トップ選手の「軸」に注目してみる

このような技術は、多くのトップ選手でも見られます。ジョコビッチ選手のフォアハンドには再現性の高い軸が見られます。アルカラス選手がコートの内側に入って強打する際には、軌道を下げるために前傾方向への軸の傾きを利用していることが見られます。シナー選手のバックハンドでは、軸を維持したままの腰部の回転速度の速さと、肩の回転半径の大きさを、分かりやすく見ることができます。観察の視点を「軸」に置くと、技術の理解が一段進むように思います。

まとめ

軸を意識すると、体幹の姿勢が安定し、ショットの再現性・一貫性を高めることにつながります。「高く打つ」は、気持ちで狙うのではなく、軸で作る。そう捉えてみると、アドバイスの受け取り方や練習の組み立て方、トレーニングの方法も変わってくるかもしれません。

以下のツールは、軸の傾きと発射角の変化を視覚的に理解させるツールです。高さの説明や指導の際、軸による高さの狙い方の学習に役立てばと思います。またこのツールと弾道シミュレーションツールを組み合わせて、指導のバリエーションを増やすこともできそうです。自由にお使いいただき、面白い使い方があれば教えていただければ嬉しいです。

TOOL

発射角視認ツール

軸の傾きと発射角の関係を、目で見て確かめられます。指導や練習の場でご自由にお使いください。

優れたコーチの見つけ方

JTLの視点 / Coaching
優れたコーチとは、どんなコーチでしょうか。選手時代の実績、速いボールを打つ技術、テレビでの解説経験——こうした指標がプレイヤーのニーズと合っていれば、優れたコーチといえるかもしれません。一方でJTLでは、生徒のニーズを満たすために自分のコストを積極的に使えるコーチを「優れたコーチ」と考えています。今回は、そのコーチを見分ける方法を一つご紹介してみたいと思います。

JTLが考える「優れたコーチ」

Our Philosophy でも触れていますが、JTLの考える優れたコーチとは、生徒の目標を聞いて理解し、具体的な内容を示すことで目標への道標を描けるコーチを指します。

こうしたコーチは、生徒が理解できるよう自らを高め、幅広い知識と情報を常にアップデートし、目標を達成するまでの「未来との時間軸」までも視野に入れています。

ただ、これらは数回レッスンを受けただけでは分からないこともあります。相性もありますから、簡単に見つかるものではないかもしれません。

一度のレッスンで見分けられるサイン

そのなかで、一度のレッスンを見るだけで良いコーチを見分けられる方法の一つが、これです。

Key Point
「コーチはボール出しのときに動いているか?」

これは、ボールを出しながら足を動かしているとか、ジャンプしているといった話ではありません。コーチが、ドリルを実際のラリーに近づけるための動きをしているかということです。

たとえば、次のようなドリルのボール出しを考えてみましょう。

Drill Example — FHD CC → FHD DHL → BHD DTL / 3球
FCCフォアハンド・クロスコート
FDTLフォアハンド・ダウン・ザ・ライン
BDTLバックハンド・ダウン・ザ・ライン

このとき(右利きの場合で説明します)、コーチは正しい位置に動けているでしょうか。

1球目のボールを出した後FCCに合わせてコーチはデュースコートへ移動してボールを出しているか?
FCCに対するボール出しの後にFDTLへ向けてコーチはデュースコートからアドコートへ移動してボールを出しているか?
FHD CC→FHD DHL→BHD DTL コート図(3球)

たったこれだけのことでも、そのコーチが生徒のためにコストを使っていることが伝わってきます。同時に、このドリルの目的や方法を理解したうえで実施していることも見えてきます。何より、生徒のためにできることをしている時点で、すでに意味のあるレッスンになっているのです。

もちろん、体を動かすことが難しいコーチもいるでしょう。それでも、工夫があるか、説明があるかで、その姿勢は感じ取ることができます。

おわりに

今回ご紹介したのは、良いコーチを見つけ出す方法の一つです。これをしていないからといって、そのコーチを否定しているわけではありません。ただ、このような行動ができるコーチは、まず信頼できる良いコーチだと考えてよいのではないかと思います。

Note
今回紹介した観察ポイントはあくまで一例です。優れたコーチの在り方は多様であり、JTLではコーチと生徒の関係を継続的なプロセスとして捉えています。良いコーチとの出会いのヒントとして参考にしていただければ幸いです。

試合への臨み方 — 試合中に信頼できる言葉とは

夏の試合シーズンに向けて、前回の投稿に引き続き今回も試合への臨み方について考えたいと思います。

「絶対勝つ」「このポイントは取る」——そんな言葉を、自分や選手に向けて使ったことがある方は多いと思います。その強い意志は本物です。でも一度、立ち止まって考えてみましょう。

その言葉は、本当に力になっているでしょうか?


■ 「勝つんだ」という言葉が、逆に迷わせることがある

「絶対に勝つ」「負けたくない」——これらは強い感情を表す言葉ですが、試合中に「どうやって」の答えを持っていません。

感情が高ぶった状態のまま動こうとすると、身体は何をすればいいかわからなくなります。コーチが気合を入れて「このポイント取るぞ!」と伝えても、選手の中に具体的な動きのイメージが生まれなければ、プレッシャーだけが残ります。

試合中に信頼できる言葉は、より具体的な方法や道筋を思い起こさせる言葉です。


■ 「何をするか」にフォーカスする

「勝つために何をするか」——このひと言の転換が、試合中の自分を支えます。

たとえば、「リカバリーポジションへの戻りを意識する」「高い軌道のボールでダウンザラインに持っていき、相手をコートの外に追い出す機会を増やす」「スイングボレーを迷わず打つ」——こうした具体的な課題を持つことで、勝ち負けというプレッシャーから少し解放され、自分の成長を実感しやすくなります。

そして「それは君にはできる」というコーチからの言葉が、ただの決まり文句ではなく、実際の練習に基づいた”何ができる”がはっきりと見える言葉となり、選手の背中を押す言葉に変わるのです。


■ コーチの言葉が選手に与える影響

コーチの言葉は、選手の中に深く残ります。

「膝を曲げろ!」「足を動かせ!」「ボールを押せ!」「水を飲むな!」——こういった言葉をずっと抱えたまま、意味がわからないまま従い続けている選手は少なくないと思います。

JTLでは、「なぜ」を伝えることをあきらめないようにしたいと考えています。「水を飲むな」にも「ボールを押せ」にも、科学的に見ると根拠が見つかりません。だからこそ、わかるまで説明することが大切です。

理解できない選手が悪いのではありません。あきらめず伝えようとコーチ自身が成長することは選手のためにもなり、そして自分自身のためでもあるのです——その姿を、選手はきっと見ています。

一度深く理解して得た知識は、その後の多くの場面で自在に使われていきます。それは選手だけでなく、コーチ自身にとっても同じです。


■ 課題を持って、試合に臨もう

「今日の試合で何を試すか」——そのひとつの問いを持って、コートに立ってみてください。

勝ち負けの結果ではなく、勝ち負けの呪縛から少し離れ勝利に辿り着くための道のりを進んでいることを感じ取れたとき、試合はもっと豊かな経験になるとJTLは考えています。


関連記事:試合で本当に戦う相手は誰か?

試合で戦う相手は誰か?

夏の大会シーズンが近づいてきました。試合に臨むとき、あなたは誰を「相手」として考えていますか?

対戦相手? それとも自分自身?

JTLでは少し違う視点を持っています。ネット越しの相手でも、今の自分でもなく、「将来なりたい自分」と戦う—そんな試合への向き合い方をお伝えしたいと思います。


■ 将来の自分=「シャドー」という考え方

JTLでは、将来なりたい自分のことを「シャドー」と呼んでいます。影のように自分の少し先に存在する理想の自分のイメージです。

試合で本当に戦う相手はこのシャドーです。

ネット越しにいる対戦相手は敵ではありません。さまざまなボール、プレッシャー、リズムを与えてくれるパートナーです。その環境の中で、シャドー、つまり将来の自分にどれだけ近づけるか—それが試合の本質だとJTLは考えています。


■ 勝てなくていい。近づけているかを見る

シャドーはあなたが目指す完全体です。ほとんどの場合、今の自分がシャドーに勝つことはできないでしょう。

でも、それでいいんです。

大切なのは「勝ったか負けたか」ではなく、「シャドーにどれだけ近づけたか」。到達度と方向性を確かめる機会として試合を捉えることで、勝ち負けのプレッシャーや、テニスへの恐れが少しずつ和らいでいきます。

成長を実感できること、夢の姿に近づいていると感じられること—それ自体が、選手にとって大きな喜びになります。

コーチや保護者の方は、選手がその喜びに気づいたときぜひ積極的に言葉にして伝えてあげてください。「近づいているよ」というひと言が、選手の成長をさらに加速させます。


■ シャドーもアップデートされていく

もう一つ、大切なことがあります。

シャドーは固定されたゴールではありません。試合の中で「シャドーでも攻略できない相手がいる」と気づいたとき、それはシャドー自体をアップデートするサインです。

理想の自分が更新されていく。それもまた、試合から得られる大切なフィードバックです。


■ コーチ・保護者の方へ

コーチや保護者の方は、選手がシャドーときちんと向き合えているかを見守ってあげてください。シャドーに近づこうと挑んでいるとき、あるいは目の前の勝ち負けに気を取られてシャドーの存在を忘れてしまっているとき—その両方に気づき、選手と一緒に確かめ合う姿勢が大切です。

試合に勝つために何をすべきか、それはもちろん重要なことです。ただ、その「勝つべき試合」は今日の試合でなくていい。シャドー、つまりなりたい自分になったときの試合でいいのです。


■ 勝利を目指す試合への向き合い方

ここまでは、成長を目的とした試合への向き合い方をお伝えしました。

一方で、「目の前の試合に勝ちたい」という場面ももちろんあります。その場合は、今の自分が持っている武器を最大限に活かす戦略と戦術が重要になります。コンディショニングや事前の情報収集、試合を想定したトレーニングなど、具体的なアプローチについてはまた別の機会にお話しします。


■ まとめ

試合の相手が常にネットの向こうにいるという考え方を一度変えてみましょう。

シャドー、つまり将来の自分と向き合いどれだけ近づけたかを積み重ねていくーその先に本当の意味での成長があるとJTLは考えています。

今シーズンも自分自身と向き合う試合を楽しんでください。

最高のドリルとは?(その2)

目的を持ってドリルをする・実践・応用編


前回(その1)では、安全管理・目標設定・ドリルの導入説明・選手の観察という、ドリルを効果的に運営するための基本的な考え方についてお伝えしました。今回はより実践的な応用編として、グループ指導の現場でコーチが直面する具体的な状況への対応方法について考えていきます。


ポイント5:能力差のある選手への対応

グループレッスンでは、同じドリルを行っていても選手の能力に差があることは避けられません。これはむしろ自然なことです。大切なのはその差を否定することではなく、同じドリルの中で個々の選手に合った負荷と目標を設定することです。

コーチが調整できる主な要素:

  • フィードの難易度 ─ 球速・深さ・コース・スピンの量を選手に合わせて変える
  • ターゲットエリア ─ 上級者には小さく・初心者には大きくする
  • ショットパターン ─ 同じドリルでも求めるショットの種類を変える
  • ドリルのスピード ─ テンポを上げることで上級者への負荷を高める

グループ練習の中で個別対応を行うことは、コーチの観察力と判断力が問われる場面です。すべての選手が「少し頑張れば届く」レベルの課題に取り組んでいる状態を作ることが、グループ全体の成長につながります。


ポイント6:ドリルを発展させる

ほぼすべてのドリルは、段階的に難度を上げることができます。同じドリルに変化をつけることで選手の集中力を維持し、成長に合わせた刺激を継続的に与えることができます。

ドリルを発展させる主な方法:

  • ボールの数を増やす(連続性・持久力への負荷を高める)
  • スピードを上げる(反応・判断のスピードを鍛える)
  • あえてゆっくりにする(テクニックの精度を上げる)
  • ゲーム形式を追加する(スコアをつけることでプレッシャー下での実践力を養う)
  • ターゲットを小さくする(精度と再現性を高める)
  • 動きのパターンを複雑にする(コーディネーションと戦術的判断を鍛える)

シンプルなドリルをベースに少しずつ要素を加えていくことで、選手は「できた」という達成感を積み重ねながら成長できます。いきなり複雑なドリルを導入するよりも、シンプルなドリルを丁寧に発展させる方が、長期的な成長につながることが多いです。


ポイント7:動画を活用する

「百聞は一見に如かず」はポイント3のデモンストレーションだけでなく、振り返りにも当てはまります。練習を動画で記録し、選手と一緒に振り返ることは、コーチの言葉だけでは伝わりにくい気づきを生み出します。

動画活用の具体的な方法:

  • スマートフォンでドリルを録画し、その場で選手に見せる
  • 良いプレーの場面を切り出して、グループ全員で共有する
  • 定期的に記録することで成長の変化を可視化する

重要なのは、動画をネガティブなフィードバックのツールにしないことです。「ここがダメだった」ではなく「ここがこう変わった」「この場面のこの動きがよかった」というポジティブな視点で活用することで、選手の自己認識と自信を育てることができます。

またコーチ自身も自分のコーチング場面を録画して振り返ることをおすすめします。自分では気づかないクセや改善点が見つかることがあります。


ポイント8:保護者への対応

「ドリルよりもポイント練習や試合をもっとやってほしい」という声は、現場でよく聞かれます。保護者がそう感じるのは、ドリルが「遠回り」に見えるからかもしれません。

しかし前回の記事でお伝えしたように、ドリルには目的があります。その目的が保護者に伝わっていないとき、誤解が生まれます。

対応のポイント:

コーチはドリルの目的を保護者にも伝える習慣をつけましょう。練習前後の短い一言でも十分です。たとえば「今はリカバリーポジションを意識させているんです。打った後の動きが良くなってるでしょう?」などと積極的に話しかけるようにしてみましょう。保護者の見方が変わります。

JTLが提供している練習記録シートは、このための道具です。コーチが何を意図して練習を設計しているかを三者で共有することで、保護者の理解と信頼を得やすくなります。ドリルの目的を「見える化」することが、三角形(選手・コーチ・保護者)を機能させることにつながります。

▶︎ JTL 練習記録シート・目標ノートを使う(無料)


ポイント9:個別レッスンが必要な選手を見極める

グループドリルは、各選手の進捗状況を観察する絶好の機会でもあります。グループの中では見えにくかった課題が、ドリルを通じて明確になることがあります。

個別対応が必要なサインの例:

  • 特定のショットで繰り返し同じエラーが出る
  • グループのペースについていけず、焦りや萎縮が見られる
  • 逆に、グループの課題が物足りなくなってきた

このような選手に気づいたとき、グループレッスンの中で対処しようとすることには限界があります。個別レッスンでの集中的なフォローアップを提案することで、選手の成長を加速させるとともに、コーチとしての信頼も高まります。

「気づいて、提案する」── これもコーチの重要な役割のひとつです。


ポイント10:コート上の人数について

ドリルの種類によって、最適なコート上の人数は異なります。一概に「少ない方がいい」とは言えません。

考え方の基準:

  • 高負荷のドリル(フィジカル・持久力系)は多人数でも成立する。待機時間を利用してシャドースイングやフットワーク練習をさせることで、全員が動き続けられる
  • テクニック系のドリル(フォームの精度・繊細な感覚)は少人数の方が効果的。コーチの目が届きやすく、フィードバックの質も上がる
  • ゲーム形式のドリルは、人数が多い方が競争意識が生まれやすい場合もある

大切なのは「待っている選手に何をさせるか」を常に考えることです。待機中の選手が何もしていないドリルは、コート全体の効率を下げています。ポイント3でお伝えした「各自の役割を与える」という考え方は、ここでも生きてきます。


まとめ(その2)

2回にわたってお伝えしてきた「目的を持ってドリルをする」シリーズ。最後に重要なポイントをお伝えします。

ドリルの質を決めるのは、ドリルそのものではありません。

どんなシンプルなドリルでも、目的を持ち、全員が理解し、安全に、そして選手一人ひとりの状態を観察しながら運営されたとき──それが最高のドリルになります。

このシリーズを読んでくれたコーチのみなさんが、明日の練習から一つでも試してみてくれたら嬉しいです。


前回の記事はこちら: 最高のドリルとは?(その1)目的を持ってドリルをする・基礎編

目的に合ったラケットを選ぼう

知り合いのコーチからラケットの選び方について質問を受けたので、今回はその視点でお話ししてみます。

ラケットを選ぶとき、「誰のモデルか」や「初心者向け」「アスリート向け」といったキャッチコピーを手がかりにしてしまうケースは少なくありません。それ自体が悪いわけではありませんが、スペックが示している内容とスペック上には現れない特性を理解しておくことで、選択の根拠が一段と明確になります。ここではその視点をいくつか整理してみます。

誰のためのラケットを選ぶのか

スペックの話に入る前に、一つ考えておきたいことがあります。

「今の自分に合うラケットを選ぶのか、これからなりたい自分に向けたラケットを選ぶのか」

技術を伸ばしながらパフォーマンスを向上させていきたい選手であれば、現状より少し要求レベルの高いスペックを選ぶという考え方もあります。「今の自分に最適化されたラケット」と「これからの自分に向けたラケット」は必ずしも同じではない、という視点は持っておいて損はないでしょう。

一方で、現在の力を最大限に発揮することが目的であれば、たとえば週末のプレーを楽しみたいソーシャルプレイヤーや、生涯スポーツとしてテニスを続けていきたい方には、今の自分にもっともフィットするラケットを選ぶことがもっとも合理的な選択です。

目的が違えば、「合うラケット」の定義も変わります。


公式スペックから読めること

メーカーが公表しているスペックには、読み解くと意外と多くのことが見えてきます。各項目が「何に影響するか」を意識しながら見ていくと、選択の手がかりになります。

重量

パワー スイングスピード 疲労・負担

ラケットの重量はパワーに直結します。ただし単純に「重い方がパワーが出る」わけではありません。

物理的には、重量 × コンタクト時のスイングスピードの積が大きいほどボールへの力積が増します。つまり重くても振れなければ意味がなく、自分のスイングスピードを維持しながら扱える範囲で重さを選ぶことが基本的な考え方です。

バランスポイント

スイングスピード 操作性

同じ重量でも、重心の位置によってラケットの挙動は変わります。

  • グリップエンド寄り(トップライト):振り始めに必要な力が少なく取り回しやすい。ただし振り始めてからの加速への貢献は控えめ。
  • ヘッド寄り(トップヘビー):振り始めには大きな力が必要だが、一度スイングが始まると加速しやすくインパクト時のエネルギーが増す。

どちらが良いというより、自分のスイングの特性と組み合わせて考えることが重要です。

バランスポイントの感覚を体験するには、グリップ側とヘッド側それぞれにおもりをつけて素振りしてみると違いがよく分かります。どちらが自分に合うかを感覚として知っておくことが、ラケット選びの精度を上げる一歩になります。

JTLではこの感覚をより直感的に体験できるツール「Active Weight System」を採用するラケットについても研究中です。(Active Weight System:ラケット内に組み込んだ自由重量をショットに応じて移動させる仕組み)

ヘッドサイズ

パワー スイートスポット コントロール

ストリングが張られる面積で、平方インチ(sq in)で表されます。

ヘッドサイズが大きくなるとストリングの有効長が長くなり、スイートスポットが広がります。オフセンターヒット時でもある程度エネルギーが伝わりボールが飛びやすくなる一方、ストリングの動きの自由度が増す分、発射方向の精度はやや下がる傾向があります。

小さめのヘッドサイズはスイートスポットが狭い分、芯で捉えたときのフィードバックが明確でコントロール性が高まります。自分がどの程度の精度でスイートスポットを捉えられるかが、選択の一つの基準になります。

スティフネス(RA値)

パワー コントロール 打感 疲労・負担

フレームのインパクト時の変形量を示す指標です。一般的なラケットは54〜74の範囲に収まります。

RA値が高い(硬いフレーム)の場合、インパクト時の変形が小さいため打点のずれが抑えられ発射方向が安定しやすく、エネルギーロスも少ないためパワーとコントロールの両面に寄与します。一方で力が瞬間的に集中しやすく衝撃が大きくなる傾向があり、手元のブレにも関わってきます。

RA値が低い(柔らかいフレーム)の場合、変形が大きい分インパクト中に力が分散されるため瞬間的な衝撃が和らぎ、「柔らかい打感」と表現されることが多くなります。ただしエネルギーロスが大きくなるためパワーとコントロールは低下する傾向があります。

なお「しなり戻しによるエネルギー回収」はRA値に関係しますが、テニスのインパクト時間(およそ数ミリ秒、条件によって異なる)内に効果を得ることは難しいとされています。同じRA値でも素材と質量の組み合わせによって特性が変わるため、数値だけで判断するより実際に試打して確かめることが確実です。

ストリングパターン

スピン コントロール

縦糸(メインストリング)と横糸(クロスストリング)の本数の組み合わせで、主にオープンパターン(16×19など)とクローズドパターン(18×20など)に分類されます。

スピン量の違いを語るうえで以前は「摩擦係数の差」がよく引用されていましたが、現在の研究ではスナップバックと呼ばれる現象が重要視されています。スナップバックとは、インパクト時に横方向にずれたメインストリングが、ボールの離れ際に元の位置へ戻ろうとする動きのことで、この「戻り」がボールに回転を与える主要なメカニズムと考えられています。

  • オープンパターン:ストリング間の空間が広いためメインストリングがずれやすく、スナップバックが起こりやすい傾向があります。
  • クローズドパターン:ストリング間の空間が狭くスナップバックの量は控えめになります。
スナップバックの効率はストリングパターンだけでなく、テンションや素材との組み合わせによっても変わります。

推奨ストリングテンション

スピン パワー コントロール

メーカーが推奨するテンションの範囲で、一般的には45〜60lbsに収まることが多いです。

スナップバックはテンションが低すぎても高すぎても効率が落ちるという特性があります。テンションが高すぎるとストリングが動きにくくなり、低すぎると元の位置に戻る力が弱まります。推奨レンジはこのバランスが取れた範囲と考えることができます。

推奨レンジから大きく外れる場合には、そのラケットが特定の特性に特化して設計されている可能性があります。レンジ内のどこを選ぶかはストリングの種類・形状・スイングスピードなど複数の要素が絡むため一概には言えません。ストリングについては別の機会に改めて取り上げたいと思います。

グリップサイズとフレーム長

操作性 疲労・負担

グリップサイズは手の大きさに合わせて選ぶもので、合わないと力の伝達効率や腕・手首への負担に影響します。フレーム長の標準は27インチで、ITFルールでは最長29インチまで認められています。長いフレームはリーチとレバレッジが増す一方、振り始めに必要な力が大きくなるため取り回しがやや難しくなります。どちらも基本的なフィッティングの要素として確認しておきたい項目です。


スペックには現れない要素

公表スペックの外にも、実際のパフォーマンスに影響する要素は存在します。

素材の品質と構造:フレームに使われるカーボンファイバーは製品によって繊維の強度・繊維長・編み方が異なります。同じ「カーボン製」と記されていても、素材の品質や内部構造によって打球感や反発特性は変わります。

グロメット:フレームのストリング穴に埋め込まれているプラスチック製のパーツです。グロメットの素材や形状はストリングの動きやすさ、ひいてはスナップバックの発生にも影響します。また経年や使用頻度によって変形し、同じラケットでも打球感が変化することがあります。

製造ロットの差:トッププレイヤーの中には同一モデルでも製造工場や製造ロットを指定するケースがあります。スペックには現れない原料レベルの素材特性まで感覚として捉えているということです。試打でしか確認できない要素が、ここに凝縮されていると言えます。

「これは自分に合うラケットだ」という感覚は大切にしていただきたいと思います。ただ、なぜ合うのかを少し言語化できると、次のラケットを選ぶときや選手に推薦するときの根拠になります。

スペックはすべてを語るわけではありませんが、読み方を知っておくと選択の精度が上がります。そして選手にラケットを推薦する立場であれば、今の状態だけでなく「その選手がこれからどうなっていきたいか」という視点も、選択の根拠に加えてみてください。

最高のドリルとは?

目的を持ってドリルをする(その1)


コーチのみなさんはレッスンで行うドリルを決めるときに何を考えて決めていますか? 他のコーチがしているからミニテニスから始めよう、この前見た有名なコーチがしていたドリルをしてみよう、自分が習っていたころの練習メニューと同じドリルをして最後にマッチ練習をしようなどといった理由でドリルを選んでいることはないでしょうか?

ドリルはあくまでドリルでありシンプルなボール出しの組合せからなる練習方法です。特別な魔法のあるドリルなど存在はしません。大切なことはドリルの種類ではなくどのようにそのドリルを運営するかです。選手・コーチ・保護者の誰もがドリルを楽しみにしていないなら、それはドリルが正しく運営されていない証拠だといえるでしょう。

ドリルにはヒッティングやマッチ練習にはないメリットがあります。選手の具体的なニーズに合わせてカスタマイズでき、テクニック・安定性・パワー・動き・体力・戦術など、多様なスキルをひとつの練習の中で同時に鍛えることができます。このシリーズでは、JTLが考える「目的を持ったドリル」の考え方と実践方法を2回(予定)に分けてお伝えしたいと思います。最高のドリルとは、高額な機材を使ったものや有名なコーチが考えたものではなく、選手の成長のための明確な目的が設定されコーチと選手によって適切に運用されたドリルのことなのです。


ポイント1:安全管理

ドリル中の安全確保は、すべてに優先します。

どれほど優れたドリルでも、怪我が起きた瞬間にその練習は失敗です。コーチは常にドリルの設計段階から安全を考慮する必要があります。

実践チェックリスト:

  • 使わないボールかごやその他の器具機材は必ずバックコート深くに置く
  • ドリル中に反対側のコートへボールを拾いに行かせない(ボールが当たることや捻挫のリスクを回避)
  • 待機中の選手が適切な間隔を保つようにモニターする(シャドースイングができる程度の距離を確保させる)
  • ネットに引っかかったボールは必ずローテーションごとに片付ける

特に注意したいのが最後の点です。 コート上に転がったボールは足首の捻挫の最大原因です。「あとでまとめて片付ける」ではなく、習慣として毎回のローテーションで処理することを最初から徹底してください。これはビギナーコーチが見落としがちなポイントです。


ポイント2:目標設定

どんなにシンプルなドリルでも明確な目標が必要です。「なんとなく球出しをする」と「目的を持って球出しをする」では、同じ時間でも選手の成長に大きな差が生まれます。

以下のような項目をドリルで鍛えられる主な目標として考えてみると良いでしょう:

  • テクニック ─ 特定のショットのフォーム・威力・再現性
  • ターゲット ─ 軌道イメージとコース・精度と再現性の確保・リカバリーポジション
  • 動き ─ アジリティ・バランス・コーディネーション・スピード
  • 体力 ─ 心肺機能・持久力/スタミナ・ショット時の心拍数コントロール
  • ポイント構成 ─ 始め・組み立て・ポイントの支配権の移動・フィニッシュへの流れ
  • 戦略・戦術 ─ センターコントロール(コートの支配)・異なるプレースタイルへの対応

大切なのは選手全員がその日のドリルの目標を理解していることです。練習前に「今日のこのドリルで何を磨くか」をシンプルに伝える習慣をつけましょう。目標を理解した選手とそうでない選手では同じドリルでも集中の質とそれに伴う成長度がまったく違います。


ポイント3:ドリルの導入説明

コーチがドリルの説明を省略したり不十分なまま始めてしまうと選手はドリルから十分な効果を得ることができなくなります。

コーチが陥りやすいのが「自分はわかっているからなんとなく伝わるだろう」や「以前にしたことのあるドリルだから説明はいらないだろう」という思い込みです。選手の立場に立てば、何をすべきかわからない状態で動くことは不安でありモチベーションにもなりません。またコーチにとっては何度も行っているドリルであっても選手がコーチと同じような理解をしているかどうかは完全にはわからないのです。繰り返しているドリルの場合、選手の理解度を把握するためにドリルの目的を質問してから始めてもいいと思います。もしかするとコーチが気付いていなかったドリルの効果が出てくるかもしれません。

効果的な導入の3ステップ:

① 場面を設定する 選手を集め、注意を引きつけてから「このドリルの目的・重要性」を簡潔に説明する。なぜこのドリルをやるのかを伝えることで選手の集中度が上がり効果が得られやすくなります。

② 各自の役割を説明する 打っている選手だけでなく、待機中の選手にも役割を与えましょう。フットタッピングやアンクリングをする、シャドースイングをする、ボールを拾う(危険のない範囲で)、特定の場所へリカバリーするなどがあります。全員が動いているドリルは、全員が止まっているドリルよりも効果を得やすいケースが多くあります。

③ デモンストレーションをする 百聞は一見に如かず。言葉で説明するよりも一度見せる方が格段に伝わります。コーチ自身が打てる場合はやって見せる。難しければ上手な選手に見本を見せてもらうのも有効です。


ポイント4:選手の体や態度を観察する

ドリルの効果を最大化するために、コーチはボールだけでなく選手一人ひとりの状態を常に観察する必要があります。

同じタスクを与えられても選手の反応はそれぞれ異なります。内側に閉じこもって無表情になる選手もいれば、感情が表情や言葉に出る選手もいます。疲れているのか、集中できていないのか、自信をなくしているのか──その違いを読み取ることもコーチの重要な仕事のひとつです。

コーチがすべき観察のポイント:

  • 集中が切れているサインを見逃さない
  • ネガティブな姿勢が他の選手に伝染していないか
  • 逆に落ち着かせる必要がある場面はないか

状況に応じて選手へのフィードバックを調整しましょう。時には落ち着かせる必要があり、時には鼓舞する必要があります。グループ全体への声かけと個別へのフィードバックを使い分けることが、ドリルの質を維持するカギとなります。


まとめ(その1)

ドリルの質を決めるのはドリルそのものではありません。安全に、目的を持って、全員が理解した状態で始める──この3つが揃ったとき練習は本物の学びの場になります。

次回(その2)では、能力差のある選手への対応・ドリルの発展・動画活用について取り上げます。


目的を持ってドリルをする(その2):実践・応用編

チャンピオンを作るチーム作り(その1)


「チャンピオンを生み出す秘密のレシピなど存在しない。」 — Nick Bollettieri (ニック・ボロテリー)

私が仕事の関係でNickとやり取りをしていた時の彼のメッセージが先述した言葉でした。

「優れたコーチさえいれば」という考え方は、テニスの世界に根強く存在しています。しかし50年以上テニスを指導し続けたNickがたどり着いた答えは、「コーチ一人の力には限界がある」という謙虚な事実でした。


コーチだけではチャンピオンは生まれない

Nickはコーチを陶芸家にたとえていました。どれほど腕のいい陶芸家でも素材となる粘土の質が最終的な作品の質を決める—才能という素材は指導によって引き出せるものであり、コーチが生み出せるものではない、と。

では何が選手の才能を開花させるのでしょうか。

Nickが当時モニカ・セレシュ、ジム・クーリエ、アンドレ・アガシの3名のチャンピオンを振り返りながら語っていたことにそのヒントが隠れています。

選手・コーチ・保護者—この三者が同じ方向を向いているとき、チームとして機能する。


三人が同じ山を登るとき

セレシュが12歳でアカデミーに来たとき驚くほど細い少女でした。しかし足は一瞬も止まらず、常にベースライン内側でボールを打ち主導権を握っていました。その集中力と練習への姿勢を支えていたのは、自らの人生を娘の成功に捧げた家族の存在だったとNickは語っていました。

クーリエについては「give 100 percent at all times and find another 10 percent to offset any weakness.」と語った言葉が印象に残っています。彼が特別だったのは才能だけではなく、負けた翌日には練習量を倍にするという姿勢でした。そしてその姿勢を支えたのがコーチや周囲に一切干渉しなかった両親の存在でした。選手・コーチ・保護者の三角形が常に調和していた、とNickは語っていました。

アガシはまた別の話です。類まれな才能を持ちながら本人がそれを受け入れるまでに時間がかかりました。しかし20代半ばを過ぎてから、自分を本当に信じてくれる人たちとチームを組んだとき彼は別人のように輝き始めました。才能が開いた扉は、チームがあってはじめて通り抜けられるものだったのかもしれません。


三角形が崩れるとき—JTLが考えること

ここからは、Nickの言葉をもとにJTLが現場で感じてきたことをお話しします。

コーチと保護者の方針が対立する。親が子どもに過度なプレッシャーをかける。選手自身がチームを信頼できなくなる—これらはテニスの現場でけっして珍しくない光景です。

多くの選手でこの「三角形の歪み」のダメージを大きく受けることを見聞きしてきました。ジュニア選手は伸びしろが大きいだけにその機会を失ったときの落差も大きくなります。

では、三角形を選手のために機能させるには何が必要でしょうか。

JTLが考えるのは、目標と情報を「言葉にして共有する」ことです。

選手が何を目指しているのか。コーチが何を意図して練習を設計しているのか。保護者がどこまで関与しどこからは任せるのか。これらが明文化され三者の間で共有されているかどうかが、三角形の強さを決めると考えています。

かつてはそれを一枚の紙に書いて確認することもありました。今ならデジタルツールでリアルタイムに共有することもできます。しかし大切なのは、ツールの種類よりも「共有する文化」を三者の間に育てることではないかと思っています。

JTLでは、その仕組みをできるだけシンプルにコストや手間をかけずに実現できる方法を考えています。

たとえばデジタルツールが使える環境であれば、GoogleスプレッドシートやLINEを使って三者でリアルタイムに情報を共有することができます。NeoLABのNeosmartpen(約15,000円)のように、紙に手書きしたものがそのままデジタル化されて共有できるツールも現場では非常に使いやすいと感じています。コーチがペンを1本持ちアカウントを三者で共有すれば、練習中のメモがリアルタイムで選手や保護者に届きます(※チーム共有用のアカウントはプライベートのものとは分けることをおすすめします)。

一方で、「そこまでデジタル化しなくていい」という方もいると思います。大切なのはツールではなく共有する習慣です。

そこでJTLでは、誰でもすぐに使えるシンプルな共有フォーマットを3種類用意しました。

  • ① 練習記録シート(毎回の練習後に三者で記入)
  • ② 試合振り返りシート(試合後に選手・コーチ・保護者それぞれが記入)
  • ③ 目標ノート(三者で目標を共有し、段階的に記録していく)

▶︎ シートをコピーして使う(無料・Googleスプレッドシート)

これはあくまでシンプルなベース版です。使いながら自分たちのチームに合わせてカスタマイズしてもらえれば、それが一番いいと思っています。「こんなフォーマットに改良したよ」という方がいればぜひJTLに見せてください。みんなで一緒に育てていけたら嬉しいです。


最後に少し、個人的な話を。

JTLのホームページをリニューアルするにあたり、過去の資料を整理していたところ20年ほど前のNickとのやり取りが出てきました。当時彼がテニスマガジンで連載していたコラムの翻訳を担当していた縁でいくつかのメッセージや原稿が手元に残っていたのです。

読み返してみると、20年経った今でも色あせない言葉がたくさんありました。今後もこうした当時のやり取りを振り返りながら、JTLの考えと重ねて記事にしていければと思っています。


→ チャンピオンを作るチーム作り(その2):チームを広げる——メンタリストとフィジカルトレーナーの役割(近日公開)

世界1位への道を山登りで考えてみる

今回は、コーチングそのものについて考えてみたいと思います。

現代のテニスにおけるコーチングは、実にさまざまな分野にまたがっています。技術、メンタル、フィジカル、戦略・戦術、環境予測——一人のコーチが受け持つには、必要とされる情報があまりにも多いと感じることもあるでしょう。

コーチングは、求められる成果によって追求するもののバランスが変わります。けれど、どのレベルであっても、それぞれのプレーヤーが最も効率的かつ安定的に最高のプレーをするための手助けをすること——それが共通の目的だと考えています。

なぜ「世界1位」を軸に考えるのか

このウェブサイトでは、主に「世界1位を目指す」という視点を中心に書いていきます。

ここで、ひとつ補足させてください。世界1位を目指す技術は最も効率が良いものであっても、必ずしも「最も苦しい練習の上にのみ成り立つもの」ではありません。むしろ、効率的な技術の習得は趣味でテニスを楽しむ方やウィークエンドプレーヤーにとってもそれぞれのテニスライフをより豊かにしてくれるものだと私たちは考えています。

世界一高い山を登るように

それでは、世界1位になるためのコーチングについて考えていきましょう。まずは、世界1位になるためのメソッドを「山登り」に例えてみます。

7つの要素 / Seven Elements

1
登ろうとする山 = 世界一高い山 = 世界1位
2
山を登る人 = プレーヤー
3
地図・スケジューリング・コンパス = プランニング / コーチング
4
登るための技術 = テニスの技術
5
登るための体力 = フィジカル
6
登山中の対応 = 戦術 / 戦略
7
登山中の精神力 = メンタルタフネス

このほかにも、どれくらいの期間で登るのか、けがやリハビリへの備えなど、さまざまな要素に分けて考えることができます。では、それぞれを個別に見ていきましょう。


1
登ろうとする山 ── 世界1位という頂

目指すのは、まだ誰も登ったことのない、世界一高い山です。けれど、地上から見上げる者にとって、どの山が一番高いかを知ることは、とても難しいことです。

だからこそ、より多くの情報——道具の最新技術、トレーニング方法やメソッドの最新状況——をもとに、「山を登りきるタイミング」を考え、その時点で可能な最高の技術を予測することが重要になります。

もしこの予測を「予測する時点での最高技術(=現在のNo.1)」と捉えてしまうと、山を登りきる頃には、その技術はすでに5年、10年前の過去のものになっているかもしれません。趣味でテニスを楽しむ方への指導とは、主にこの点が異なります(多くの場合、数年後よりも、もう少し短い期間での成果を望まれるためです)。


2
山を登る人 ── プレーヤー自身

山を登るのは、プレーヤー自身です。最も大切なのは、「山に登りたい」という気持ちを持つこと。すべては、そこから始まります。

途中でくじける必要はありません。早く別の山を登る人を見て、焦ったり諦めたくなることもあるかもしれません。けれど、その人が登っている山の頂上が、自分の山より高いかどうかは、登りきるまで分からないのです。

他人と比べるのではなく、自分が着実に登れているか——そこに集中してみましょう。


3
地図・スケジューリング・コンパス ── 進む道とコーチ

地図は、世界1位になるための道筋を示すもの。スケジューリングは、いつ登頂するか、それまでに何をすべきかを考えるもの。そしてコンパスは、地図とスケジュールに沿って進めているか、どちらに進むべきかを指し示すもの——つまり、コーチです。

コーチが優れたコンパスの役目を果たせなければ、プレーヤーは山を登るのが難しくなります。見えにくいコンパスや、針が安定しないコンパスのように、信頼できないコーチでは、プレーヤーは安心して進めません。優れたコンパスであろうとする努力を惜しんでいては、優れたコーチにはなれない——そう考えています。


4
登るための技術 ── テニスの技術

高い山を登るために優れた登山技術が必要なように、テニスで世界1位になるためにも、優れた技術が必要です。

技術は、一朝一夕で身につくものではなく、正確な反復練習によってのみ身につきます。一方で、誤った指導による反復は、非効率な技術を身につけることにつながります。一度つくられた神経回路を完全に消すことは、とても難しい——だからこそ、最初から正しく、必要な技術を学ぶことが大切です。

コーチは、教えているその瞬間だけでなく、その後の技術の成長に対しても、重要な役割を果たしているのです。


5
登るための体力 ── フィジカル

山を登るには、体力が必要です。その山が高く険しくなるほど、優れた体力とフィジカル面のパフォーマンスが求められます。

一時的な体力の向上ではなく、山を怪我なく登りきる体力を、計画的に高めていくことが大切です。そして、体力やフィジカルを、技術と結びつけて考えることも重要だと考えています。


6
登山中の対応 ── 戦術・戦略

登山中に起こるさまざまな出来事や、ルートの見直し。それらが起こる可能性を考え、あらかじめ対策や準備をしておく必要があります。

テニスでも同じです。試合でどんなことが起こるかを予想し、その状況に適切に対応できる準備をしておくこと。戦略や戦術を考えることは、登山で予想される危険を避けるルートを考えたり、危険に備えたりすることと、同じように重要です。


7
登山中の精神力 ── メンタルタフネス

ここまで挙げてきた努力や学習を続けていくには、しっかりとしたメンタルタフネスの土台が必要です。

高く険しい山を登りきるという強い信念は、困難に思える努力や高い壁さえも、時に喜びに変えてくれます。そして多くの場合、一人で取り組むよりも、チームで取り組むことで、「登りたい山があるから、登れるようになるための努力をしている」という前向きな気持ちを持てるようになります。

もしよければ、私たちもあなたのチームの一員として、
その高く険しい山に、一緒に挑ませてください。