JTLの視点
コーチに高さを使おうと言われた時の一つの考え方
― 軸の傾斜に関する検討
「もう少し高く打ちましょう」。練習やレッスンで、一度は耳にしたことのあるアドバイスかもしれません。けれど、いざ高く打とうとすると、どうすればいいのか分からず迷ってしまった——そんな経験はないでしょうか。多くの場合、「高く狙って」という言葉だけが残り、ではどうやって高さを作るのか、というところまでは語られないように思います。
「高く狙う」だけでは再現しにくい
ボールを高く飛ばそうとして、手先でラケット面を上に向けたり、すくい上げるように打ったりすると、一球ごとに動きがばらつき、再現性が下がりやすくなります。高さは「気持ちで狙う」ものというより、基礎フォームを使い、外的要因を変化させる(実際には疑似的に外的要因を変化させます)と考えることで、何をしたらいいのかが明確になります。その外的要因のひとつが、発射角です。
打ち方を変えるのではなく、軸の傾きを変えるという考え方
高さを出す方法として、打ち方そのものを変えるアプローチも考えられます。ただ、打ち方を変えると再現性が複雑になりやすく、もともとの基盤となるスイングの安定性にも影響を与える可能性があります。軸の傾きで調整する考え方は、土台の傾きを調整するアプローチであるため、基盤となるスイングを保ちます。基盤となるスイングを向上させることで、高さを変更するショットの質も同時に向上するのです。そのためJTLでは、軸の傾きの調整による高さの変更を一つの方法として提案しています。
地面を傾ける
JTLでは、発射角を変えることを「地面の傾きを変える」とイメージしてみると分かりやすくなります。といっても、実際に地面が傾くわけではありません。本当の意味では、体の軸の傾きを変えるという発想です。
ここで大切なのは、地面・体軸・スイング・発射角を一つのセットとして、まるごと傾けるという点です。軸と地面の角度(90度)も、軸と発射角の関係も変わりません。同じ姿勢、同じスイングのまま、セットごと後ろ下がりに傾けると、実際の地面に対しての発射角だけが、傾けた角度のぶん上を向きます。
この関係は、下のツールで実際に動かして確かめられます。
発射角視認ツール
地面を傾けると体軸と発射角が一体で回り、姿勢を変えずに発射角だけが変わる様子を確認できます。「軸で高さを作る」感覚をつかむためのツールです。
地面の傾きを、体の軸の傾きで疑似的に生み出す
この感覚は、ゴルフをしたことがあればイメージがしやすいと思います。たとえば「左足上がり」(右利きの場合、左足側が高くなる傾斜)など、傾斜が付けば、その傾斜に合わせてボールは飛ぼうとします。実際、左足上がりの斜面ではアッパー軌道で当たりやすくなり、打球が高く上がります。これが傾斜による発射角の変化の効果です。テニスではほぼ100%コートは水平ですので、これを自分から作りにいくと考えるようにします。
具体的には、後ろ脚(軸足)の膝関節の屈曲をやや深めにしたり、腰をやや伸展させる(腰を反らせる方向に伸展させる)ことで、上体が後方に傾きます。オープンスタンスでの軸の傾けはやや難しいため、セミオープンを利用すると作りやすいと考えられます。
また、ステップの利用(バックフットピボットやフロントフットピボットなど)も、ヒッティング時の軸の傾きづくりに役立ちます。ステップワークやフットワークについては、別の記事であらためて紹介します。
発射角が変われば、着弾も変わる
軸を傾けて発射角が変わると、ボールの落下点も変わります。発射角が何度変わると、どこに落ちるのか——それは弾道シミュレーターで確認できます。また、軸の傾きが発射角を作り、発射角が着弾を決める、という流れでつながっています。
テニス弾道シミュレーター 詳細版
発射角・回転量・スイング速度に加えて、コート上の位置や打つコースまで設定でき、ボールがどこに落ちるかを物理計算で確認できます。発射角の変化が着弾にどう効くかを視覚的につかめます。
トップ選手の「軸」に注目してみる
このような技術は、多くのトップ選手でも見られます。ジョコビッチ選手のフォアハンドには再現性の高い軸が見られます。アルカラス選手がコートの内側に入って強打する際には、軌道を下げるために前傾方向への軸の傾きを利用していることが見られます。シナー選手のバックハンドでは、軸を維持したままの腰部の回転速度の速さと、肩の回転半径の大きさを、分かりやすく見ることができます。観察の視点を「軸」に置くと、技術の理解が一段進むように思います。
まとめ
軸を意識すると、体幹の姿勢が安定し、ショットの再現性・一貫性を高めることにつながります。「高く打つ」は、気持ちで狙うのではなく、軸で作る。そう捉えてみると、アドバイスの受け取り方や練習の組み立て方、トレーニングの方法も変わってくるかもしれません。
以下のツールは、軸の傾きと発射角の変化を視覚的に理解させるツールです。高さの説明や指導の際、軸による高さの狙い方の学習に役立てばと思います。またこのツールと弾道シミュレーションツールを組み合わせて、指導のバリエーションを増やすこともできそうです。自由にお使いいただき、面白い使い方があれば教えていただければ嬉しいです。
発射角視認ツール
軸の傾きと発射角の関係を、目で見て確かめられます。指導や練習の場でご自由にお使いください。

