テニスコーチについて – What do we need to be a good tennis coach ?? –

今日は技術的なトピックではなくテニスコーチという職業について書きたいと思います。

テニスコーチの仕事はどの段階ならびにどの規模のコーチをするかによってその役割が大きく異なります。今回は本サイトの目的の一つである世界1位の選手を育てるという視点を中心に考えていきたいと思います。

まずは、テニスコーチに強く求められる要素として以下の4つを挙げます。

  1. 科学的な知見に基づく土台
  2. 新しい知識を獲得するためのネットワークの形成
  3. 最新データや知見に対する柔軟性と適応力
  4. 選手ならびに選手の家族とのコミュニケーション能力

では、1~4それぞれについて考えていきましょう。

1.科学的な知見に基づく土台・・・指導プランの設計ならびにプランに基づいた個々のトレーニング(フィジカルだけでなく技術、メンタル、戦略も含めます)を設計していくうえで必須です。科学的なロジックを身に着けておくことでプランの方向性が明確にできるようになり、個別のトレーニング設計においてもより効果的な方法を選択することができるようになります。トレーニングの新規開発についてはより専門的で高度な知識が必要となりますが、コーチ自身がそれらの知識を持っておく必要はありません。高度な知識とその応用などについては日ごろから信頼できるエキスパートや専門家との関係性を高めておくことのほうが時間的にもコスト的にもより効率的といえるでしょう。今後エキスパートの採用はより日常的なものになると思われます。

一方で経験や伝え聞いた内容をそのまま利用するのではなく、それらの情報が正確なものなのかどうか根拠とする科学的背景があるかどうかといったことを常に念頭にいれて情報を取捨選択していける程度の力は必要です。先のブログで話した力積の法則を正確に知る必要はありませんが、力が速さと質量の関係で成り立っていることは知っておく必要があります。経験や伝聞、感覚にはコーチにとっての多くの危険性が備わっています。一つ一つ理解したうえで指導に活かすようにしましょう。

2. 新しい知識を獲得するためのネットワークの形成・・・現在の高度情報化社会においては新しい知識や技術の伝播はめまぐるしく高速化しています。この傾向は今後より顕著になっていくことと考えられており、ある人が考えた瞬間にその考えが同時並列的に伝播する世界になることもそう遠くないかもしれません。現在はネットを介しての情報の拡散と収集やTwitterやInstagramなどSNSによる選択的な情報の提供と入手が伝達速度の速い伝播手段と言えます。使い方がわからない、自分には関係ないと思わずこれらの最新技術に積極的に関わっていく姿勢が重要です。これらにしても自分で難しい場合には必要に応じてエキスパートを利用したり専門家に依頼するなどして良いと思います。今や80歳代の方でもSNSを利用しています。30代・40代のあなたができないなどということは”しないこと”の言い訳に見られることを知っておきましょう。

3. 最新データや知見に対する柔軟性と適応力・・・2で述べたように今や世界中から膨大な量の情報が迅速に入手できるようになりました。情報のなかには有用なものもあれば役に立たないもの、パフォーマンスを低下させてしまうようなものも少なくありません。様々な形で入手した一見ばらばらな情報からそのエッセンスを抜き出し理解できるための適応力が必要です。また一見役に立たない情報であったり活用するのが難しそうな知識でその情報から得られるものがないか柔軟に判断していくことも重要です。

4. 選手ならびに選手の家族とのコミュニケーション能力・・・上述の1~3で得たりアレンジできた情報はより選手に分かるように言語化され、またトレーニングメニューとして解釈され選手に供給されます。選手がコーチングの意図していることやトレーニングメニューが何のためにされているのかなどを理解することは、選手の上達速度を向上することにつながるでしょう。また多くのジュニア選手の場合、家族のサポートが重要になります。コーチが家族と向かい合いコーチングの中身や目的、将来的に見据えているビジョンを定期的に会話することは選手の練習環境の改善に役立つことになります。コミュニケーション能力は、会話がうまいとか面白いとかそういったものである必要はありません。選手に信頼されるコーチであるかどうかが最も重要です。

まとめ・・・極論を言えば、コーチに選手としての活躍や経験は必要ありません。むしろ中途半端な成績や経験から脱却できず新しい情報を得ることのないコーチは選手のためのコーチとは言えないのです。実績や過去の戦績に関係なく(ないほうがいいと言っているわけではなく、戦績などはコーチにとって必須のものではないという意味です)、選手のために自分が成長するという強い気持ちと行動が真のコーチを作り上げるのです。世界のトップコーチ(とりわけコーチングチームのリーダー)たちは自分の時間を自分の選手に捧げていると言えます。それは日常においても自分の成長が選手のためになると自覚しているからです。ただぼんやりとボールを出しなんとなくアドバイスを送っていくのではなく、コーチングの一つ一つ、プランの一つ一つを”意味のある”ものにしていけるようにしましょう。ただし、今回の記事をここまで読んだあなたはもうすでに十分に優れたコーチの資質を有していると思って間違いないでしょう。

私の選手時代のコーチであった福井規夫コーチが本日逝去されました。選手時代にはわかっていない部分も多々ありましたが、今思えば福井規夫コーチは多くの面で私にとって理想的なコーチであったと思います。私が学問の道に進んだのちにテニスやゴルフなどの技術の話をしたとき、理解できるまで何度も質問をしてくれた姿が今でも目に浮かびます。福井規夫コーチのおかげで多くの気づきに出会えました。福井規夫コーチと技術論を語り合えた日を懐かしく思います。謹んでご冥福をお祈りいたします(2022年11月8日)。

“テニスコーチについて – What do we need to be a good tennis coach ?? –” への2件の返信

  1. 自分の考えを押しつけることに注意をしてはいるものの、その考えに対するエビデンスを持つための行動をしているかは、疑問です。
    コーチ仲間でのディスカッションについても、お互いに意見の被せ合いになっていく一方・・・認め合いながら議論できる方は数少ないように感じます。

    物事の捉え方はいたってシンプルで良いと思います。
    「怪我をしない」・「相手のコートに返す」

    個人的にはこの2点をベースに、柔軟な見方・姿勢をもちトライ&エラーを繰り返しながら、精一杯目の前のお客様に尽くす想いです。

    ありがとうございます。

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